サッカーにおける得点数を増やすにはどうすればよいのだろうか。あらゆる選手とコーチが日々、追求している事柄だ。ここではルール面においてどのように得点の増加とエンターテインメント性の向上に寄与できるか考えてみたい。
2026北中米W杯における変化
2026北中米ワールドカップでは、エンターテインメント性がピッチ内外で強化された。ピッチ外では、ハーフタイムショーが充実した。決勝戦でハーフタイムショーが行われる初のワールドカップとなった。サッカーワールドカップは、世界で最も注目されるスポーツイベントだが、ショータイムにより、サッカーに関心のない層の注目も集めることが期待できる。
参加チーム数が32カ国から48カ国に拡大し、ワールドカップを自国代表の出場を通じて大会を身近に感じられる人々が増えた。一方で、大会のレベルが低下するという懸念もある。今後のワールドカップは、スロースタートで、強豪チームが勝ち残っていくにつれて盛り上がっていくようになるだろう。
ピッチ内では、各ハーフにハイドレーション・ブレークが導入され、クオーター制に近くなった。それに先立つ2017年にプロプルシヴ・フットボール(プロボール)は、クオーター制のルールを発表している。しっかりと給水できることで、選手の活力を維持できる他、戦術的な指示や変更も行いやすい。また、試合中継の途中に自然な流れでコマーシャルを挿入しやすくなった。これまでは、試合の流れが切れた際などに少しずつ休んだり時間稼ぎしたりしていたのが、しっかりと休む時間を設けて、そのタイミングで観客や視聴者も一息つける。
主要大会の直前で多くのルール変更がなされ審判も選手も慣れるのが大変で適応力が試された。2026北中米ワールドカップを目前にして国際サッカー評議会(IFAB)が決定した、競技のエンターテインメント性を高めるルール変更には、主に下記のようなものがある。
• スローインのカウントダウン(5秒)。
• ゴールキックのカウントダウン(5秒)。
• 交代の時間制限(10秒)。
• ピッチ外での治療(1分)。
• ハイドレーション・ブレーク(3分の給水休憩)。
• VAR適用範囲の拡大(コーナーキック判定、2枚目のイエローカード、セットプレー前)。
また、ゴールキーパーのカウントダウン(8秒)が、ワールドカップ直前ではないが2025年に導入された。
新型コロナウイルスのパンデミック以降に交代選手数の拡大(5人、延長戦の場合は6人、脳震盪の代替選手出場)も適用された。これは、ピッチ上の選手の活力を増やし戦術的な選択肢を増やすことにつながり、エンターテインメント性が向上したといえるだろう。
1994アメリカ・ワールドカップでのルール変更
1994アメリカ・ワールドカップでは、エンターテインメント大国アメリカでの開催とあり、いくつかの変更点があった。1994年大会は、勝利の勝点が2ポイントから3ポイントに拡大された。また、GKへのバックパスに制限が設けられた初のワールドカップだった。勝利のポイントを増やすことでより攻撃的な戦い方を促し、GKへのバックパスによる時間稼ぎを是正する狙いがあった。
得点が増えるようにゴールポストのサイズを拡大する案が出たが、適用されなかった。ゴールポストの幅と高さを約10%拡大するだけでも、得点が増えるだろう。ルール変更としては、シンプルで分かりやすい。しかし、世界中の既存のゴールポストを交換する必要があるため、負担が大きくなるのは明らかだった。
新戦術の登場と新ルール
サッカーの歴史を振り返ると「得点が増える新戦術」が登場しても見逃される一方で「得点を阻む新たな戦術」が考案されると対策が検討されて「得点を増やすためのルール改正」が行われるといったことが繰り返されてきた。
その代表的な例がオフサイドだ。毎年のように細かいルール変更が議論されている。以前のオフサイドラインは後方から3人目だったが、1925年に後方から2人目になった。これにより、イングランド1部の得点は約30%増加した。3人目のルールは、サッカーの統一ルールが確定してまだ間もない1866年に導入された。
今後のサッカーにおいて得点を増やすにはどんなルール改正が可能だろうか。これまでの経緯を踏まえて、じっくりと考えてみよう。
オフサイドルールの変更
オフサイドルールをさらに攻撃側に有利にしたら得点が増える。
例えば、オフサイドの適用をペナルティエリア内に限定した場合は、どんな効果が期待できるだろうか。左右両サイドの深い位置にウインガーが留まることが可能となる。従来からサイド攻撃は有効だが、オフサイドラインを破ってディフェンスラインの裏に抜け出すことを意図するものだった。ディフェンスの裏を取る意図は変わらないが、ボールが配給される前から深くに残ることが可能となる。結果として、守備側のフルバックやウイングバックは両サイドの深い位置に陣取ることになるだろう。
守備側は、ディフェンスラインをある程度、高い位置に押し上げることで陣形全体をコンパクトにして守備網を形成する。しかし、相手ウインガーが深い位置に留まると、それに合わせて深い位置に残らざるをえず、陣形全体が縦に間延びして中盤に広いスペースが形成される。スペースが広がると、攻撃側に有利となり、得点機も増える。
従来の微妙なオフサイドラインの駆け引きは見られなくなる。守備側がディフェンスラインを深くすると、攻撃側は相手守備陣の裏を取ることが難しくなり、人の間をすり抜けていく俊敏性とテクニックがより求められるようになる。
ディフェンスラインを深くすると、もう一つの作用が生まれる。プレッシング戦術の有効性が低下するのだ。組織的なプレッシングの進化により、攻撃側は苦しめられてきた。プレッシングが弱くなることでも、攻撃側に有利になる。
陣形を「コンパクトに維持する」のと「縦に間延びさせる」のでは、どちらがエンターテインメント性が高くなるかは、意見が分かれるところだろう。
チームの人数を減らす
スペースが増えると、ボールを動かしやすくなり攻撃側が有利になる。チームの人数を11人から10人、9人、8人と減らしていくと、得点が増えることが期待できる。11人制における1試合の平均得点は3得点弱だが、ジュニア世代で盛んな8人制では、試合時間が90分より大幅に短いにもかかわらず1試合平均で約4得点と、より多くの得点が入る。
一方で、人数が減ることにより、パスの選択肢や戦術の選択肢が減るという影響もある。得点数が多いのと、戦術的な選択肢が多いのとで、どちらがエンターテインメント性が高くなるかは、観る側の価値観によって異なる意見の可能性がある。サッカーにあまり詳しくないライト層は得点が多いのを好み、プレー経験があるようなコア層は戦術的な選択肢が多い方を好む傾向になることが考えられる。
スペースを増やすには、選手数を減らすかわりにピッチサイズを広げるという方法もある。しかし、そうなると世界中のスタジアムを再設計する必要が出てくるため、負担が膨大で現実的ではないだろう。
フリーキックの守備側への制限強化
スペースが広がって得点が増えるのは、守備が難しくなるからだ。他の方法で守備を難しくしても、得点が増えることが期待できる。
例えば、フリーキックの壁に制限を設ければ、得点の確率が上がる。現在、10ヤードの距離をもう少し遠くにすれば、フリーキッカーはさらに強い勢いでボールを蹴れるようになる。もし壁の形成を完全に禁止すれば、得点はさらに増える。そうなると、フリーキッカーに求められる資質も変わる。回転をかけて上から落ちるボールよりも、一直線に強烈なシュートが打てるキッカーが好まれるようになる。また、不規則に変化する無回転シュートのキッカーは、引き続き重宝されるだろう。
ファウルの厳罰化
サッカーのファウルは、攻撃側よりも守備側によるものが圧倒的に多い。ファウルをより厳しく判定することで守備が難しくなり、得点が増える。
中盤ではファウルになるようなプレーが、ゴール前ではファウルにならない場面が多々ある。得点になるかどうかという瀬戸際のプレーが多く、お互いのフィジカルコンタクトも激しくなり身体が少し当たるくらいでは、審判はプレーを流す傾向がある。今後、ディフェンシブサードでもミドルサードのような基準でファウルを取れば、得点が増えるだろう。
一方で、ゴール前の激しい競り合いを観たいという観客や視聴者もいるため、フィジカルコンタクトを減らして得点を増やすことが、必ずしもエンターテインメント性を高めるとは限らない可能性もある。
2026年時点では、レッドカードにより退場となり、再びその試合でプレーすることはできない。ラグビーユニオンのシンビンのような一時的な退場を導入することも可能だろう。例えば、イエローカードは5分間~10分間の一時退場の処分を適用する。数的優位になったチームは有利に試合を進めることができて得点の機会が増える。また、一時退場にならないように選手たちが気をつけることで得点の機会が増える。
スコアする選択肢の増設
1994アメリカ・ワールドカップ前に検討されたゴールポスト拡大案は採用されなかった。しかし、他の方法で得点の選択肢を増やすことは可能だ。
数あるフットボール競技の中で、得点方法が1つしかないサッカーは、むしろ少数派だ。ゴールポストの中にボールを入れたら1得点となる。だから守備側は、中央にあるゴールポストを守ることに神経を集中させる。
例えば、ラグビーユニオンであれば、ゴールラインに到達してボールを置けばトライとなり、5ポイントが加算される。ゴールラインは、フィールドの幅と同じであり、守備を一箇所に集中させるのは困難だ。一方で、トライ後に行われるコンバージョンキック(2ポイント)は、トライの位置が基準となり、キックを決めやすい中央の価値が高いため、守備側が中央の守備を厚くするある程度のインセンティブもある。また、守備側がトライばかりに気を取られていると、ドロップゴール(3ポイント)というスコア方法もある。
サッカーにおいても得点の選択肢を増やせば、得点が増える。また、選手の集中を中央から分散させることで中央のスペースが広がり、中央のゴールポストへの得点も増える。
例えば、コーナーキックの数を記録して、スコアが同点時にはコーナーキックの数により勝敗を決するという方法が考えられる。例えば、コーナーキック1本を0.1ポイントとしてスコアに直接反映させると、守備を分散させる効果が増す。
さらに中央の集中を分散させたい場合は、コーナーキックアークにボールを足の裏でプレースすることで、スコアできるようにするのはどうだろうか。これを仮に「コーナーポイント」と呼ぶことにしよう。ラグビーのトライに似た方法だが、スコアできる場所はコーナーキックアーク内に限定される。コーナーポイントの価値を変えることで、中央のゴールの集中を調整できる。例えば、コーナーポイントは引き分けの時にのみ適用されるのであれば、効果は限定的だ。一方で、中央のゴールポストへの得点を10ポイントとして、コーナーポイントを1ポイントとすれば、試合のスコアに直結するため、守備側はコーナーの守備にさらに注力する必要が出てくる。
中央のゴールポストへの得点を1得点として維持したいのであれば、コーナーポイントを0.1ポイントとすることもできる。その場合は、最終的なスコアが、例えば「3.2対1.5」といった細かい数字になる。
コーナーキックからコーナーポイントをスコアするのには、一定の制限を設けたほうが効果的だろう。例えば、コーナーキックからは、一旦、10ヤードボールが離れないとコーナーポイントはスコアできない、というのはどうだろうか。
得点増加が必ずしもエンターテインメント性の向上になるとは限らない
これまで、どのようにサッカーの得点を増やして、エンターテインメント性を向上させるかについて論じてきた。しかし、そもそも、得点が多ければエンターテインメント性が高くなるとは限らない。得点数の増加だけをエンターテインメント性の向上と結びつけるのは単純化しすぎた見方であり、必ずしも競技が面白くなるわけではないのだ。
得点する機会が多いと、実力差がスコアに反映されやすく、番狂わせが減るからだ。得点機が多く、スコアレスになる確率が極めて低いバスケットボールやラグビー・ユニオンでは、ジャイアントキリングは起こりにくい。バスケットボールに引き分けはないが、スコアレスになることはほぼ考えられない。ラグビーユニオンにおいて引き分けになる確率は、1%~5%程度で、スコアレスドローになる確率は約0.01%だ。
一方で、サッカーの試合は、約25%の確率で引き分けになり、約10%の確率でスコアレスドローになる。サッカーのサポーターたちは、たとえ弱小クラブがビッグクラブと対戦する場合であっても、引き分けや勝利に持ち込む一縷ながら現実味のある可能性を期待するのである。
前評判通りの試合結果に必ずしもならないのが、サッカーの醍醐味でもある。サッカーのエンターテインメント性を向上させるには、得点を増やすことと、勝負の拮抗とのバランスが重要となる。
著者:長田拓也 Takuya Nagata. Amazon Profile
Follow @nagatackle小説作家、クリエーター。ブラジルへサッカー留学し、リオデジャネイロにあるCFZ do Rio(Centro de Futebol Zico Sociedade Esportiva)でトレーニングに打ち込む。日本屈指のフットボールクラブ、浦和レッズ(浦和レッドダイヤモンズ)でサッカーを志し、欧州遠征。若くして引退し、単身イングランドに渡り、英国立大学UCAを卒業。スペイン等、欧州各地でジャーナリスト、フットボールコーチ、コンサルタント等、キャリアを積む。若干14歳で監督デビューを果たし、イングランドの大学サッカー部の監督も歴任。クリエーティヴ系やテクノロジー畑にも通じる。社会の発展に寄与するアート・ムーブメント『MINIRISM』(ミニリズム)、ナレッジハブ「The Minimalist」(ザ・ミニマリスト)、スペース カルチャー & エンターテインメント ハブ『The Space-Timer 0』をローンチ。『Football Game Sphere』(フットボール・ゲーム・スフィア)でも執筆。ダイバーシティと平等な社会参加の精神を促進する世界初のコンペティティヴな混合フットボール「プロプルシヴ・フットボール」(プロボール)の創設者。
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